大阪高等裁判所 昭和53年(ネ)2099号 判決 1979年8月29日
控訴人
畑中春樹
右訴訟代理人
高木清
被控訴人
京南建設こと
垂石直次
右訴訟代理人
浜田次雄
主文
一、本件控訴を棄却する。
二、控訴費用は控訴人の負担とする。
事実《省略》
理由
一、二<省略>
三ところで本件のように割賦販売契約により買受けたがその未払割賦金が残存し所有権が売主に留保されている自動車を他へ転売した場合の法律関係は次のように解すべきである。本件を含めて一般に自動車割賦販売契約においては自動車の転売を禁止する旨の特約が売買当事者間でなされているが、このような禁止特約があることにより、売買当事者間におけるその効力は別として、転売当事者間の転売契約自体が無効とされるものではなく、割賦買主の同売主に対する債務不履行を生ずるに過ぎないものである。転売人は割賦買主として割賦代金の既払分について潜在的な持分を有し、残額を支払えば自動車の所有権を取得しうるという条件付権利を有しているが、他方、割賦売主は割賦金の既払、未払を問わず当初の契約により留保された所有権を有している。しかも、この所有権は実質的に担保的機能を有するものの、なお法的には所有権たる性質を失わないのである。
そして、(一)右転売契約において転売人が転買人に対し未払割賦金の支払を転売人においてなす約定をした場合には、その転売契約は割賦金既払分の前示潜在的持分ないし条件付権利と、割賦売主に留保されている所有権とを併せた自動車に関する一切の権利を譲渡するもので転売人は自動車の所有権を取得して転買人に移転する義務を負うという、他人の物の売買たる性質を帯有する。これに対し(二)転売人が未払金の支払義務を負わず、転買人においてその支払をなす場合には、前示条件付権利のみの譲渡であつて転売人は自動車の所有権を取得して転買人に移転する義務はなく、民法五六〇条にいう他人の物の売買たる性質を有するものとはいい難い。
そして、前示原判決の引用により認定したとおり本件自動車の転売は、転売人たる控訴人において未払割賦金支払の義務ないしその不払による損害填補の危険を負担するものであるから、前示(一)のとおり他人の物の売買たる性質を帯有するものといわねばならない。したがつて、右原判決引用による認定のとおり、本件においては転売人たる控訴人において、本件自動車が京都トヨタに引上げられたことによりその所有権を取得して転買人たる被控訴人に移転することができなくなつたものであるから、民法五六一条により被控訴人は控訴人に対し右売買契約を解除しうるものである。
(下出義明 村上博巳 吉川義春)